文人趣味的書架その四

・古梅園墨譜・



墨譜とは、墨の図案集といえば良いと思います。
過去に、あまり多くの墨譜は出版されていません。
代表的なものに「方氏墨譜」「程氏墨苑」などがあります。
これらはいずれも中国明代の著名な墨の工房が作った墨を記録されたものです。
方于魯、程君房がその名前です。
詳細についてはお尋ねください。

これらの中国の墨譜に倣い、
奈良の「古梅園」六代元泰が「古梅園墨譜」(1712年刊)を、
七代元彙が「古梅園墨譜後編」(1772年刊)を出版しました。
これらの墨譜には、墨を飾った多くの図案が掲載され、
ここから多くの事を学ぶことができます。









この墨は私が今から20年ばかり前に、
中国から輸入された古墨として手に入れた墨です。
未使用で手に入れたのですが、ずいぶん減ってしまいました。

数年前に『古梅園墨譜』を手に入れ見ていると、
私の所有しているこの墨と全く同じ墨が載っていました。
日本の墨が中国の墨を真似る事はあっても、
中国が日本の墨を真似る事はめったに無いと思い、
「古梅園」を訪ねお伺いしますと、
間違いなく「古梅園」の江戸時代の墨だと言う事です。

清代後期に中国の文人たちの間で、
日本の「古梅園」の墨が持てはやされたことは聞いて知っていましたが、
まさかその実物が手に入るとは思っていませんでした。
おそらく150年くらい前に、奈良から長崎を経由して中国に渡り、
そして文化大革命最中の中国から日本へ帰還し、
大阪まで辿り着き、そこで私と出会い、奈良まで帰ってきたということです。

私の実家から「古梅園」までは徒歩6分くらいです。
この「豊山香」という墨は六代元泰が、
弘法大師が中国から伝えたとされる家伝の古法で作られて墨だそうです。
「古梅園」には江戸時代の古墨はあまり残っていないそうで、
この「豊山香」は、もはや世界で1つしかない墨かもしれません。

この墨で私が描いた画があります。



落雷で焼けた大木を描きました。



この墨の状態をみてください。
古墨でしか起りえない味わいが十二分に発揮されています。
濃墨と滲みの輪郭の墨色。

そして画像からは判り辛いですが、にじみの端に藍が出ています。
このことについても「古梅園」にお尋ねしますと、
「墨に藍を混ぜたという記録は無い。」とのこと。
しかし申し訳ありませんが、事実です。
だれも知らない「豊山香」の秘密です。









この墨も、私が所有している墨譜に掲載されている墨です。
墨に描かれている貝葉とは、「バイタラヨウ」の略で、お経の書かれた葉を意味しています。
しかしこの墨は使ってみたところ、そんなに古くなく、最近のものかもしれません。
古い型を使って今でも墨を作っていますし、人気のある墨は、型を新しく作り直すこともあるそうです。
しかし原型はやはり江戸期の「古梅園」の墨ということです。

墨を愛玩するなんて、なかなか理解して頂けません。
しかし、私にとって机上の友の中でも、特に仲の良い親友です。
親友だからこそ、手に取って愛でて、時には大切に、大切に使ってあげます。

家蔵の『古梅園墨譜』は「古梅園」から平成五年に発行されたもので、
現在も販売されていると思います。

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