文人趣味的書架その二

吉祥図案解題

〜支那風俗の一研究〜

この本は、私が手に入れてからもう10年近くなります。
つい先ほどまで、この本のことは誰にも語らず、密かに楽しんでいました。
ある意味、私のネタ本と言っても良いものです。



これだけ素晴らしい本が、未だに復刻されずにいることが不思議でなりません。
この本から図案を勝手に取っている本を見かけます。
この本は日本人の野崎誠近氏が昭和3年に中国の天津で発行したものです。



内容は、中国の吉祥図を、図案と共に詳しく解説されたものです。
解説には出典まで書かれたものもあり、実に詳細で、画を描く者にとってはもちろんのこと、
煎茶道の世界にいる者にとっても、必須の1冊といっても良いでしょう。

また伝統的な図案に係わる仕事の方々にも、非常に参考になる本です。

しかしこの本の存在はあまり知られておらず、その上現存している部数はかなり少なく、
全国の図書館でも収蔵されている所は殆どありません。
もちろん古書市場で見かけることもめったにありまん。

具体的に少しだけ紹介します。



右のページです。南天に瓜の画です。
画題は「天地長久」となっています。



画の前のページに詳細が書かれています。
(画像から読み取れるでしょうか。)

「老子」の一節を取り上げています。
世の中が何時までも長久でありますようにという意味です。
この意味が解らなければ、ただ南天と南瓜の画だなぁ。で終わってしまいます。
中国では昔から身の回りの物の多くに、このような寓意が含んでいます。

たとえばラーメン鉢の四角い渦巻きのような紋様は、皆さんご存知だと思います。
この紋様には名前があり「雷紋」「回紋」などと呼びます。
本当の「回紋」は一筆でずっと繋がっていなければなりません。
なぜなら、代々何時までも続くようにとの意味が、あの紋様にはあるからです。
しかし現代では紋様だけが一人歩きしてしまい、プツプツ途切れた「回紋」になっています。
ということは、代々続かないという事でしょうか。知っていてプチ自慢になる、小ネタです。

この本は、本文だけで620ページもあり、画題は185あります。
画題は数種の素材が組み合わさっているものが多いので、素材一つの画題で言えばもっと多くあります。
この家蔵本は、初版本ですが、昭和15年に加筆修正され、二部に分かれたものが出版されています。
先日友人のD氏がこの再版本を所蔵されていることが判り、
私の初版本の足りない部分をぜひ拝見したいと思っています。

画を描くのに、知識は要りません。
しかし多くの知識と経験があるほど、感動は大きくなるものです。
もっともっと感動したいです。だから、もっともっと勉強です。

明代の文人、董其昌は『画禅室随筆』でこう言っています。
「読萬巻書 行萬里路」
多くの書物を読み、多くの経験をしなければ、画の世界を極めることはできない。と。
座右の書物は日々高く積もっていくばかりです。

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