・程氏墨苑・

中国明代の、代表的な「墨譜」です。

「墨譜」とは、墨の図案集とでも言えばよいのでしょうか。

この「程氏墨苑」は、明代以降、製墨の本場として知られた安徽省出身の程大約が、
自作の名墨の数々を木版磨りで、出版したもので、第一部14冊、第二部九冊の構成になっています。

また、墨の図案だけでなく、墨の一つ一つに、当時の名士たちが賛を題しています。



明代末期は、木版の技術が格段に向上した時期で、優れた、絵本が多数出版されました。

この本もその中の一つで、「墨譜」としては、その他に「方氏墨譜」などがあります。

現在日本で確認されている明版の「程氏墨苑」は、わずか十数冊のみです。



少し詳しく見てみましょう。

この項は「五清」と題された墨の図案です。

盆栽に仕立てられていますが、松、竹、梅、春蘭、石の五種類を、そう呼んでいます。

これは、名数画題といわれ、歳寒三友(松、竹、梅)、
四君子(蘭、竹、梅、菊)、などと同じで、数字の含まれた画題です。

つまり、この「墨譜」を見ることで、墨の姿を眺めるだけではなく、「五清」という画題を知ることができました。

このように、この本からは、その他にもさまざまな情報を得ることができ、とても貴重な本です。

もちろん眺めているだけでも、飽きることの無い本です。

またこの本は、すでに江戸時代に日本に持ち込まれ、当時の画家たちにとっては、

画の格好のテキストとなったことでしょう。

この画像の本は、奈良の呉竹精昇堂が昭和54年に刊行した復刻本で、限定版です。

底本は、東京芸術大学図書館所蔵のもので、全項影印されています。

現代の製墨業の方が、このような素晴らしい貴重な本を復刻された偉業に、心より敬意を表します。

また、中田勇次郎先生が解説されていることも、付け加えておかなければなりません。



今夜は文房で墨を磨るのを止めて、香を焚き、「程氏墨苑」を開く。

憧れの明代文人たちの世界を、垣間見たような気がした。

いまやもう本物の程君房の墨を手に入れることは、奇跡に近い。

仕方なく、家蔵の倣古の程君房を手に取り、江南地方に想いを馳せながら、茶を啜る。

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