・雨紛紛・
早春の山の雨は冷たい。
雑木林に靄が立ち込め、極微細な雨は隙間という隙間の隅々まで、重力に関係なく入ってくる。
歩きなれたこの道の行く先を閉ざし、前へ進もうとする気持を鬱す。
立ち止まり、あたりを見回しながら、
唐代の詩人、杜牧の『清明』を口にする。
清明時節雨紛々
路上行人欲断魂
借問酒家何処有
牧童遥指杏花村
清明の時節は雨紛紛
路上の行人魂を断たんと欲す
借問す酒家は何処に有りやと
牧童遥かに指さす杏花村
(今日は春の盛りの清明節だというのに、あいにくこぬか雨がしきりに降ってい る。
その雨は、道行く私の心をすっかり落ち込ませてしまう。
「すまんが、酒 屋はどちらの方にあるのかな」と尋と。通りかかった牧童が「あっちの方だよ」 と
はるか彼方の杏(あんず)の花が咲いている村を指さして教えてくれた。)
牧童と出会うわけも無く、歩き出す。
あの靄を抜けると、杏の花咲く村が見えてくるかもしれない。
踝まで積もった落ち葉が雨に濡れ、足取りは重い。
見上げれば、弱々しい光を求め、赤松が枝を伸ばしている。
春だというのに・・・冷たい・・・寂しい・・・春だというのに。
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